リリウスは、整った円形と明瞭な中央丘を持つ、典型的な複雑クレーター。直径約62km、周壁は比較的保存状態が良く、太陽光の角度によって陰影がくっきりと浮かび上がります。まるで「これが理想のクレーターだ」と言わんばかりの端正な姿。観測者の目には、月面の古典美を体現する存在として映ります。
一方のジャコビは、リリウスの南東に寄り添うように位置し、やや崩れた周壁と複雑な内部構造を持っています。直径は約68kmと少し大きく、内部には小丘や断層のような地形が見られます。形は不均一で、どこか荒々しく、しかしその不完全さが逆に魅力となっています。まるで「私は私のままでいい」と語りかけてくるような、月面の個性派です。
この二つのクレーターは、科学的にも興味深く、リリウスは衝突後の反発によって形成された中央丘を持ち、周囲の小クレーター群からは古い地形であることがうかがえます。ジャコビは後続の衝突や地殻変動の影響を受けた痕跡があり、月面の地質史を物語る複雑な構造を見せてくれます。
そして何より、望遠鏡をのぞくたびにこの二つが目に留まるのは、配置の妙にあると言えるかもしれません。並び立つことで互いの個性が際立ち、観測者の心に残る印象を刻みます。月面を旅する視線の中で、彼らはいつも「ここにいるぞ」と静かに語りかけてきます。
月の南部──そこには、ただの地形ではない、物語を持った地形があり、リリウスとジャコビは、その語り部となることでしょう。
【撮影日時、撮影機材、撮影法】は前項(冬の月面拡大(1))に同じ。 2025年12月28日18時26分25秒-45秒で動画撮影(100フレーム/20秒)。処理後の静止画像を拡大トリミング。 自宅にて
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